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太く短い人生。~嗚呼、私はうどんになりたい~

9円のうどん
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私はうどんになりたい。

……などということを日常生活の中で嘯いてみても、ほとんどの人が頭にはてなを浮かべるばかりでお話にならない。

まったくもってコミュニケーションとはなんと難解なことか。

どういうことかというと「うどんのように生きたい」、ただそれだけの話だ。
太く短く生きたいのだ。

小学生のころから自分は、人間50年という信長的死生観を好んでいる。
現に卒業文集の『未来予想図』では、多くのクラスメイトが「50年後・孫誕生」などと書いている中、私は「12年後 漫画家として頑張る 終」になっていた。
『終』じゃねえよ。さすがに早すぎるわ。

どうやら当時から先を見通す能力は皆無だったらしい。

余談だけど同級生には「12年後 子ども誕生」「14年後 子育て」とかいう、2年間ネグレクトを働く気満々の奴がいて、クラスメイトみんなから笑われていた。
そいつは実際12年後に20も年上のオッサンと結婚して同級生たちを沸かせることになるのだけれど、子どもを産むこともなく、わずか2年で別れて再び酒の肴となった。
育児放棄を受ける子がいなくて何よりだ。

で、その12年後(つまりは24歳)に漫画家になれるわけもなかった私は、未来予想図をも失って地図なき人生を放蕩中である。
ア・イ・シ・テ・ルのサインも届かないしドリームはカムトゥルーしないしで、どうなっていやがるんだこの世の中は。

そういえば免許をとりたての頃、ウインカーを出したいのにハイビームをカチャカチャといじりまくり、前の車にア・イ・シ・テ・ルのサインを送ってしまったことがあった。
まことに猛省。数秒後にはワイパーが作動していた。

話は逸れてしまったが、とにかく10代のころの想像だと、私は20代~30代でなんかイイ感じに成功して、40代でウハウハして、50代始めでぽっくり逝く予定だった。
マイケルジャクソンよろしく、世の人からめちゃくちゃ惜しまれるのだ。
献花だけでお花屋さんが開けてしまうくらい。

そしてポウッとご臨終!

……まあ、あの方の最期を考えるとちょっと理想形とも言えなくなってしまうのが残念だけれど。

しかし困ったことに「20代~30代でなんかイイ感じに成功して」の曖昧な出だし部分で、早速失敗してしまった。
出端をくじかれるどころか粉砕だ。
もうミルか何かで、私の出端はゴリゴリ木っ端みじんに粉砕されているのではないかと思う。

このまま無職の二十代を終え、これといって変わらない三十代が過ぎ、貯金も尽き、ただのババアと化し、それこそ卒業文集の『終』がやって来てしまうのではないだろうか。
そんな人生は果たしてうどんなのだろうか?
細く短く、例えるならばにゅう麺。
あのくたくたした、精進落としのラストにやってくる味気ない麺に似ているような気がしてきた。

正直それでもいいかな、と思えるくらい私の思考は柔軟でにゅう麺化しているので、実のところまったく焦ってはいない。
頭ににゅう麺でも詰まってるんじゃねえかと心配だから、MRI検査でも受けてこようと思う。

さて、話はここで大きく変わる。

2Lのファミリアを箱食いしながら1Lの飲料をラッパ飲みする、というアメリカ人のデブみたいなおやつを食べながら書いているうちに、当初のお題を忘れかけてしまったため一度リセットしておきたいのだ。

大学時代、私はしょっちゅううどんを食べていた。

無論、貧乏だったからだ。
貧困にさらされていた理由は以前ブログでも触れたが、飲食からコンビニバイトまで、アルバイト面接をしても何故だかすべて落ちてしまう、という謎の呪いに掛けられていたからに他ならない。

前世の行いが悪かったのだろうか?
私の前世は山形県の佐藤さん家にあるやかんだったのだが。
合否に関係があったのかは分からないが、大学時代の私は前髪が鼻先まで伸びていた。

また大学1年の夏に、金欠のクセして自動車学校にお金を注ぎ込んでしまったことも原因のひとつだ。(しかもそれでいて免許をとる前に退学しているのだから目も当てられない)
叩けば埃が出るどころの騒ぎではなく、叩かずとも勝手にボロボロ埃が落ちるせいで、私は今や全身埃まるけである。

おちんぎんを貰うのは大変なんだなぁ、と思いながら19歳の私はアパートでブロック世界を創造するお仕事や、艦隊を指揮するお仕事に従事した。
バイナリーなどにも手を出したが、秒で諭吉が蒸発したので二度とやるまいと決めている。

そんなわけですべての光熱費を滞納して催促状ばかりが届いていたアパートで、日々うどんを食べ続けた。

なんとお値段、ひと袋9円。
近所の「クスリのアオキ」がヤクでもやってんのか? という破格のお値段でうどんを売っていたため、一時期は毎食うどんだった。

9円といえばもやしの半額に相当する。
素うどんにして食べれば1日の食費、30円以下。
ヤマダ電機で買った鍋でお湯を沸かし、ほんだしと醤油、みりんでだし汁を作って袋うどんを煮る。
まさしく3分クッキング。

当然お椀などは用意しない。鍋から啜れば良いのだから。
そして昼も夜もその汁に追い汁をして、夜にすべてを飲んだ。
ある時は卵を落としたり揚げを入れてキツネうどんにしたり、またある時はカレールウを加えてカレーうどんにして贅沢をした。

卵をうどんに割り落とし、1分間だけ煮込み、火を止めてまた1分だけ蒸らす。
その卵を箸で割り絡めただし汁を飲み干すときの美味しさよ。

そんなこんなで1ヶ月の食費を1,000円台に抑えた月があったのは、良き思い出である。

あれから7年。
あの日と違うのはヒゲの生えた顔くらいさ、などということはさすがにないが、相も変わらずおちんぎんはもらえていない。
しかし食の水準だけは上がっていることに先日気付いた。
スーパーで乾麺のうどんを買ったばかりでなく、汁には具を入れ、なんとトッピングに天ぷら(それも2種類!)まで付けているのである。

まだ光熱費の督促状が届いているのに?
年金免除を受けてるのに?

一応言っておくと私は以前経理課で入金受けの業務をしており、支払い期日までに請求額を納めない客、なんか知らんが勝手に振込手数料を差し引いてくる客などに対しては「未来永劫フンコロガシにしか転生できなくなる呪文」を心の中で唱えていた。
それくらい滞納者に厳しかったにも関わらず、同じことをやってのけている。

人にやられて嫌なことはしないようにしましょうね、という幼稚園の先生の言葉は、今は無き十字架がそびえるあの学び舎に置いてきた。

さて、どうだろう。
ここらで一度、あの(物理的に)ハングリーだった大学生活に立ち返ってみるのは。

あの具無しうどんを鍋から啜り、うどんのように生きたいと漠然と考えていた日々。
うどんのような人生を送るのがいいのか、それともいっそニョッキやきりたんぽでもいいのか。
『消臭元ぶっといろ紙』のような逞しい人生を送るためには、どこにエントリーシートを送ればいいのか小林製薬か。
「あっ、」という喋り始めのドモリだけは会得してるから雇ってもらえるだろうか……。
そうやって自分の将来を考えた日々。

どんなに年をとっても心だけは若若しく、あのころの気持ちを忘れずにいたい。

そんな誓いの意をこめ、久々に品なるものがすべて失われた食事をしてみるのもいいかもしれない。
幸いなるかな、手元にはちょうど「小諸七兵衛」があるのだから。

おわり

***

この文章は3000文字チャレンジという企画用の文章になります。

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