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映画版『空青』感想 空の青さと、どんな夢も叶う場所

空の青さを知る人よの映画感想
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(画像:©SORAAOPROJECT https://soraaoproject.jp/

「空の青さを知る人よ」を見てきた。
空の青さを知る人よ
鉄は熱いうちになんちゃらというから、映画感想も熱いうちに書く。

もうおまえ空青好きすぎだろ! と言われそうだが、まさに自分の中で大ブームなのである。

こんなにハマった作品は5年ぶりくらいかもしれない。

じゃあ5年前はなににハマってたんだよ? といえば……あれ、『凪のあすから』
……ただのマリーファンじゃねえか!

と、まあそんなわけでさっそく観に行ってみたところ、平日のためか恐ろしく空いていた。
多分5人ほどしかいなかった。経営は大丈夫だろうか。

地元の映画館の心配はさておき、まず何よりも先に「あか姉が乗っているジムニーがMT車だった」ことに関して話させて欲しい。

……最高だろ。

清楚系とコンサバ系とフェミニン系を合わせて3で割らないような、なんていうかふわっとした服装をした女がジムニーMTに乗っているんだぞ? 普通ラパンあたりだろう。

ギャップ、やばくないか?
だいたいなにを思ってあの車を選んだんだ。山住みだからか?

あとこれはPVの時点でもわかっていたけれど、あか姉って字はあまり綺麗じゃない。
空の青さを知る人よ
まあ、高校の時だから現在はもっと大人っぽい字を書いているのかもしれないが、そこがまたいい。

それと慎之介に向かって舌をべーってやって去っていくところ、めちゃくちゃ可愛い。 可愛すぎるよな! 31のババアじゃねえよ!!

ホテルで慎之介ぶん投げたあそこも良かった。いや、いくら酔ってるからとはいえ大の男をあんな投げ方できないだろ! ってツッコミながらもやっぱりギャップに悶えた。

……などなど、正直なところ「いい女過ぎるあか姉を語るだけの感想」にしたいくらいなのだが、そこはぐっと我慢して映画について感想を書いていく。

小説版で内容は知っているため、ストーリーについては割愛。

映画を見て新しく思うこともあったので、追記という形で書いていきたいと思う。

ネタバレがあるので未視聴者は注意。

映画『空の青さを知る人よ』感想

あおいについて

声がついたら、思った以上にあおいがいいキャラだった。
「泣いてないし。雨だし!」と吐き捨てるセリフとか、強がった女子高生感がところどころに表れていた。

自分でもどうしていいかわからず一杯一杯になる不安定さが伝わってくる演技だったと思う。

あおいは不愛想気味ではあるけれど、意思が強く男前。
髪も短く、ヒロインというよりはどちらかといえば主人公という感じ。

実際に「あの花」のめんまがヒロインだとしたら、ここさけと空青の2人は主人公といっていいポジションなのだと思う。
……まあ、恋愛的な意味でも。

それにしてもあの姉ちゃんのもとで育って、どうしてあそこまで不愛想になるのだろうか。
まあ『いつもニコニコしてる明るい姉ちゃんと、不愛想な妹』という姉妹は私自身も小説で書いたことがあるから、鉄板な組み合わせなのかもしれない。

『自分の初恋と姉の幸せ、どちらをとるか』
ここら辺で揺れるあおいの恋心には、そこまで切なさを感じなかった。

なぜなら私は「完全片想い系恋愛」にはあまり同情ができないタイプだからだ。

ここさけを見た時にはショックを受けたが、あれはラストまで坂上と順が両想いだと勘違いしていたからである。
「思わせぶりな態度取りやがって! この野郎」と悲しくなった。……順目線で。

一方で空青は終始しんのの恋心はあかねに向いていたから、しゃーないよな、くらいの冷静な目線で見れた。

どちらかというとあおいに関しては、「姉を縛ってしまった」という後悔に苛まれている妹キャラとしての魅力度の方が高い。

妹いいよ、妹。

あかねが書いたノートを読んで、自分がどれだけあかねに愛されていたのかあおいが気付くシーン。あれが個人的に一番泣けた。
よくわからんけど涙が出た。自分、女の姉妹いないのに。

「あか姉とあおいはずっと一緒なんだから」
そう叫んだ幼いころの言葉は、あかねよりもむしろあおい本人を縛るものになってしまった印象を受けた。

あおいが「秩父の町は壁に囲まれた巨大な牢獄」だと閉塞感を吐露するシーンがある。

しかしこれは田舎(盆地)特有の閉塞感以上に、町に住んでいることで自らが生み出した罪悪感にあおいが囚われていることを意味しているのだと映画を見て気が付いた。

そんな牢獄が、美しい町に変わる瞬間がある。
それがしんのとあおいが手を繋ぎ、秩父の上空を飛ぶシーンだ。

空を飛びながらあおいは、「しんのと慎之介を応援する」と決める。
つまりそれはあかねと慎之介の恋を応援するということ。

13年前にはできなかった「好きな人を応援する」という選択ができたことで、あおいはやっと長年の呪縛から放たれることになる。
その解放と、物理的な重力からの解放がシンクロするのはうまい作りだと思う。

実際に映像として見てみると、2人が空を泳ぐシーンがとても開放的に作られていて、「解き放たれた」ことをより強く理解することができた。

話は変わるけど、チャックをしめると大仏になるあの趣味の悪いパーカ、ぜひ物販してほしい。

あと、あおいのスマホの液晶が割れているのが、今どきの子っぽさを表しているなと思った。
芸が細かい。

しんのと慎之介について

この2人の面白さは、明るく前向きで夢を見ている『しんの』が「町を出ていきたくない少年」で、ヤサぐれて足踏みを繰り返す『慎之介』こそが「町を出ることのできた人間」であるという対比にある。

18歳のしんのは、本当はあかねと離れてまで秩父を出ていきたくないと思っている。

しかし13年前の慎之介は、その心を閉じ込めて東京へ出た。
『しんの』という存在は、その13年前に閉じ込めた慎之介の心そのものだ。

映画ではあおいや慎之介目線のしんのだけではない彼の姿が描かれるから、その点がわかりやすい。

2人の金室慎之介を、吉沢さんが本当にうまく演じ分けてくれた。
初の声優でいきなりの2役。おまけに歌まで歌わされて、まあ、なんというか大変だったと思う。
しかし明るさや優しさを持つしんのと、憂いを帯び疲れ切った慎之介。二人がぶつかる激しい演技もこなし、素晴らしい作品にしてくれた。

作中で慎之介が歌う「空の青さを知る人よ」が、あいみょんの曲と同じものだったのだと知った時にはテンションが上がった。

歌詞を見て欲しい。どう聴いてもしんのがあかねのために歌ったような曲なので、切なくなる。

以前の感想で『慎之介は空の青さを思い出した』と書いたけれど、この曲を聴くとどちらかと言えば彼はただ空の青さを追い求めていただけだったことがわかる。

そんな慎之介が「諦めない」という選択をしたところに希望が持てた。

この感想、前にも言った気がするけど「夢を追いかける大人」の姿には本当に勇気づけられる。

ただ正確には慎之介の立ち位置は「すでにそれなりでも夢は叶えた人間」だから、まるっきり夢破れたサイドではない。
実際に30歳で「ミュージシャンになるぜ」とか言っている奴がいたら、ちょっとやばい。

あかねについて

とにもかくにも、吉岡さんの声が合っていた。

なんだろう、いい意味でおばさんくさい? というか老けている? 感じのおっとりした声。(老成と言えばいいのだろうか)

小説版の感想を書いた時、そういえばあかねに関しては触れていなかったことを思い出した。

作品そのものがあおいと慎之介目線だったからというのもあるが、私自身があかねの変化を見逃してしまっていたからだ。

あかねは所謂、『婚期遅れそう系お姉ちゃん』の典型である。兄弟の親代わりやっている姉ちゃんなんかは大体これだ。
海街diaryとか三月のライオンとか。

この手の女性が不幸かといえば別にそうでもないけれど、自らの幸せは後回しにしがちなのは確か。

実際に物語開始時のあかねは、独身彼氏なし31歳という、人によっては焦りがやばそうなスペック。(市役所勤務の公務員ってとこがまたリアルである)

あかねは一見流されやすそうに見えるが、本当は意思が強く自分で決めた人生を生きてきた人間だ。
しんのと別れたことも上京を止めたことも、あおいの親代わりになることも全部全部自分で決めていた。

自分で決めたのだから後悔はしていない、という芯の強さを貫く一方、「自分で決めたのだから後悔はしていない」と思い込もうとしているようにも見えた。
ちょっと意固地になっているのかな、と。

ここらへんは小説版では読み取ることができず、表情の変化などを見て抱いた感想。

とくにあおいに「馬鹿みたい」と言われた時のあかねのなんとも言えない表情がぐっときた。
想像していたのとは少し違うものだったが、傷ついたことがよくわかる顔だった。

彼女に関しては、『あおいがあの時(両親を失った時)の自分と同じくらいになっていた』ことに気が付くシーン。あれがすべてだと思う。

子どもだった妹は大人になりかけていて、手放した幸せについても考えてみてもいいのかもしれない。
そう思ったからこそ、あかねは最後に「今度ツナマヨのおにぎりでも作ってみようかな」と言うのである。

あおいの好きな昆布のおにぎりは、あかねにとって「あおいが一番」である象徴のアイテムだ。
それを強く印象づけたうえで言う、「ツナマヨのおにぎりでも作ってみようかな」の発言。

遠まわしのような直球のような、エンディングに繋がる発言で、あかねも一歩を踏み出したことがわかるお気に入りのシーンである。

その他キャラについて

映画で魅力が増したのは、ツグ。正道の息子、正嗣。
どうやらあおいのことが好きらしい。

本編の中ではかなり冷静で落ち着いた人物ではあるが、時々しんのに嫉妬したり、あおいのためにいい男になろうとする思考は小学生らしさがあって可愛らしかった。

彼はなかなかに優良物件かもしれない。とはいえ父親を見ていると、十数年後は毛深いおっさんになる可能性があるが。

父親のみちんここと正道もいい味を出していた。

物語に直接絡んで来るわけではないが、そもそも彼がいなければ話自体が始まっていないのである。

自分のためではなくあかねと慎之介のために2人を再会させた、という意見もあるが、個人的にそうではないと思う。

みちんこには、今の慎之介を見ることであかねに踏ん切りをつけさせようとするズルい考えが本当にあったのだろう。
結果として彼の思惑は外れてしまったのだからちょっとかわいそうだ。

小説版では、そんなみちんこのことを大滝が狙っているようだった。
エンドロールを見た感じ、あおいと大滝がその後も仲良くやっていたようでなによりである。

秩父の町とガンダーラ

空青の登場キャラ名は、相生、金室を始め、中村、大滝、阿保、番場と、登場人物のほぼ全員が秩父の地名から付けられている。

今回は前作の2作品以上に、秩父という土地が協調される作品になったと思う。

公開日前日に秩父を訪れていたこともあり、映画を見ていて街並みの再現度がかなり高いことがわかった。

本作は、夢見る場所(目指したい場所)と生きている場所というものが、大海・井の中と絡めてテーマになっている。

今生きている町を否定して、東京という場所を夢見るあおい。(大海に憧れる)
夢見る場所を目指し、生まれた町を飛び出した慎之介。(井の中から大海へ飛び出た)
夢見る場所(しんのの隣)を手放し、生まれた町に残ったあかね。(井の中から出なかった)

それぞれ異なる三者の生き方を描いている。

あえて蛙に例えるならば、

あおいは井の中から見える空の青さにまだ気づいていない(知らない)蛙
慎之介は大海へ出たけれど、井の中から見えていた空の青さを追いかけている蛙
あかねは井の中から見える空の青さを知っていたから大海へ出なかった蛙

といった感じだろうか。

そういう意味だと話の中心にいるのはあかねなのかもしれない。

井の中と秩父の町、大海と東京を対比しながら、そこに「どんな夢も叶う場所(理想郷)」を歌うゴダイゴの「ガンダーラ」が問いかけのように幾度も登場する。

彼らにとってガンダーラとはいったいどこなのか?

それにしても随分とオッサン向けの曲を持ってきたと思う。
夏目雅子が出ていた西遊記の曲、と言われると「あ~なんか懐かし番組とかで聴いたことあるかも」と思うけれど、ゴダイゴ自体はあまりよく知らない。

あおいはもちろん、慎之介やあかね世代の曲ですらないはずだ。
(というか、下手すると制作の超平和バスターズ世代より上の曲なのでは?)

しかしいい曲であるし、この作品において重要な曲なので聴いたことのない人は一度聴いてみることをおすすめする。

行くだけで夢が叶うような、ガンダーラなんて存在しない。
でも一方で、幸せを見つけられる場所はこんなにも身近にあった。

そんな内容を全部ひっくるめて、タイトルである「空の青さを知る人よ」

私はタイトルから作品の内容がわかるようなタイトルより、作品を見たあとにタイトルが理解できるようなタイトルの方が好きだ。
(いや、いっそタイトルなんてそれっぽくて意味不明なくらいがちょうどいい。)

すごく陳腐な言い方をすると、この作品は地元賛歌的な物語なのだ。

地元っていいよね。帰りたいと思える場所があるのっていいよね、っていう。

あおいに関しても慎之介に関しても、最後は明るい気持ちで地元を出ていく。

(エンドロールだけだとわかりにくいが、小説版によるとあおいは東京へ出てバンドを組んだ。映画を見る感じだと大学に進学したらしい。慎之介もあかねと結婚したが、東京で音楽を続けているため遠距離結婚をしている)

田舎=出ていく所という考えは今や変わり、地元思考なんて考えも高まっている。
そういう昨今を現した作品にもなったのだと思う。

秩父3部作のラストに、この作品を見ることができてよかった。

……個人的にはもっと続けてええんやでって感じだけど。

ただ舞台として登場するだけでなく、町で生きる・前向きに町を出ていくという内容になっていて、これぞ本当のご当地アニメという感じがした。

音楽をサブテーマにしただけあり、曲も作品にめちゃくちゃ合っている。(正直あいみょんの曲は聴いたことなかったのだけど、最近はずっと聴いている)

姉妹愛、別れた恋人、音楽、地方……などなど私の好きな要素がふんだんに詰め込まれていて、ここまで好みの作品はもう早々お目にかかれないかもしれない。

ただただ、素晴らしい作品をありがとうございましたと言いたい。
こんな作品を自分も書いてみたいものだ。

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