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竹宮ゆゆこ「心臓の王国」レビュー【#3000文字チャレンジ「本」】

3000文字チャレンジ「本」心臓の王国レビュー
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『―いつか失われる、17歳の日々―』

皮膚をまとわず、真皮をむき出しに生きている。
竹宮ゆゆこ氏が書くキャラクターの話だ。

一切の防御をかなぐり捨て、丸裸の自分で世界と衝突する。真皮は心だ。皮膚の守りがなければどうしようもなく傷つくし、どうしようもなく痛い。

けれど、だらだらと血を流しながら語る言葉は、叫ぶ想いは、読者に刺さる。同じくらいの傷を負わせるほどに。

彼女が生む人物はときに非現実的なくらいひたむきで、しかし忘れられない魅力に溢れている。

2023年07月に発売した、竹宮ゆゆこ氏の最新作「心臓の王国」。

発売直後に購入していたが、青春18きっぷ旅の道中で読むために1ヶ月寝かせていた。

500ページを超えるボリュームであり、まとまった時間をとって味わいたかったのだ。

その判断は正しかった。
手に取ったらぜひ、一気に読んでもらいたい。

卑怯にも公式サイトよりあらすじを引用する。

 十七歳の鬼島鋼太郎が出会ったのは、白いワンピースのような服に身を包む美青年。
「アストラル神威」と名乗るその青年は、『せいしゅん』をするために橋の上から川に飛び込んで溺れそうになるなど、予測不能な行動ばかりをとり、鋼太郎を困惑させる。
 鋼太郎と友達になりたいと言う神威に対し、面倒に巻き込まれたくない鋼太郎は、悪い奴ではないと感じつつも、そのままその場を後にした。
 しかし数日後、アストラル神威が鋼太郎の通う高校へ転入してくる。青春を謳歌しようとする神威に巻き込まれながら、鋼太郎もともに高校生活を送るが、そのうちに神威が抱える「恐ろしい秘密」を知り――。

意味がわからないかもしれないが、安心してほしい。序盤は意味がわからない。

というか、中盤でもジェットコースターで福笑いをさせられているような謎のテンションが繰り広げられたりする。だが勢いで読ませてくるのも彼女の持ち味だ。

本作は、究極のボーイミーツボーイーーブロマンスである。

印象に残ったシーンは語り尽くせないし、物語の核心にも本当は触れたい。けれど、今回は「3000文字」の制約があるので無駄話もできない。

一切のネタバレを含まず、ただ一つの単語をもってこの本を紹介する。

『せいしゅん』だ。

謎の美少年・神威の行動原理は常に『せいしゅん』で、ふたりの出会いも『せいしゅん』のためで、物語すべてが『せいしゅん』に帰結する。

青春とは、やがて失われる時間を指すだろう。
どんな世代にも青春はあるのかもしれない。
しかし本当の青春は、やはり彼らの年齢なのだと改めて思い知らされた。
そしていずれにせよ、限定的だからこそ「そのとき」は輝くのではないだろうか。

――十七歳は、特別なんだ。

物語の冒頭で、神威が言う。

「物語の主人公は、だいたいみんな十七歳なんだ。一番キラキラしてて、楽しくて下らなくて騒がしくて、悲しくて切なくて愛しくて、とにかく、美しくて……すっごく、大切なんだ。人生にそんなときは二度とないらしい。その先どれだけ泣いても笑っても、十七歳のときは違うらしい。それぐらい特別なんだって。取り戻せないんだって。宝物なんだって。そう教わった。みんながそう言ってた。そういう日々を『せいしゅん』と呼ぶんだ、って。だから俺は決めてた。ずぅーっと前から、決めてたんだ。もしも十七歳になれたら、絶対に『せいしゅん』するって」

彼のセリフはおそろしいほどの引力で私を引きつけた。自分はこの物語が好きになるだろう予感がした。

17歳は特別だ。
これは私自身の思想でもある。

実際に私は自分の小説で、「十七歳という青春のど真ん中にいた」という一文を恥ずかしげもなく書いたことがある。

17歳という年齢を、さも青春の代名詞として、戻らない日々の象徴として、幾度も使用したことがある。

以前、アニメ「色づく明日の世界から」を見た際も、OP曲のタイトルが「17才」であったことに感動した。

そう。17歳は、特別だ。

私は17歳のころ、今がかけがえのない一瞬であると自覚していた。

大人になったいつか、自分は今を振り返り、青春だった、と思うだろう。

そんな思考をぶら下げて生きている高校2年生は実に気持ち悪いが、私はいつだって人生を物語的にしか享受できない。

……まあ、それで17歳のころに何をしていたかといえば、勉強と読書と昼寝くらいなのだけれど。

しかし、17歳の年齢に期待していた。そう考えるに至るきっかけがあった。

高校1年生のころ――つまりは17歳になる直前、あるアニメ作品に出会った。原作はシリーズもののライトノベルだ。

彼らは17歳で、やはり青春の真っ只中にいた。

実際、高校2年生の設定はさまざまな創作で使われる。
後輩も先輩もいて、それなりの人間関係ができている前提もあるため物語が書きやすいのだと思う。受験も先だから手放しで日々を楽しめる。後半では将来を匂わせてシリアスの演出もできる。

そういうメタ話はさておき、私はその作品を観て「これこそが青春だ。17歳は青春のときだ!」と圧倒された。

喜びにも悲しみにも敏感で懸命で、今だけが人生だとばかりに悩んで傷つき、けれど時たま未来が顔をだす。手の届く範囲の人たちが世界のすべてで、泣いたり笑ったり、ぶつかり合ったり愛し合ったり。

未熟ゆえの、だが未熟過ぎないゆえの過渡期にある痛々しさ。美しさ。目が潰れそうなまばゆさ。

自分の生活が彼らとあまりに乖離していることが苦しくなるほどに羨ましかった。

その作品こそが、竹宮ゆゆこ氏の出世作でもある「とらドラ!」だった。

彼女は後に一般文芸へ移行し、私もライトノベルからは遠ざかってしまったのでわからないが、今でも青春コメディの金字塔的作品である……と思っている。

あのとき植え付けられた「17歳神話」(今勝手に命名した)は、私の中で生き続けた。

そして13年越しに、彼女自身が回収しに来たのだ。
全身がぞわりとした。きっと素晴らしい青春を見せてくれる。もはや確信めいた期待だった。

青春のときはやがて失われる。

そして思う。
あのころは、特別だった、と。

それは今の成功や失敗に左右されない。今が幸福でも不幸でも、どんな人生を歩んでいても、青春は永遠に特別だ。

この作品は彼らの『せいしゅん』と、その『せいしゅん』の終わりを見届ける物語である。

17歳は最高に馬鹿で最高に愛らしく、最高に切実だ。
それだけでいい。

核心どころかストーリーにすら一切触れていないが、最早そんなことはどうでもいい。
正直、これは誰かに勧めるための文章ではない。
そもそも小説を読みはじめるのに人の感想など不要だ。

ただ、もしも私と同じく17歳神話を抱いている人がいるのなら、ぜひ読んでみてもらいたい。

痛々しくも全力の『せいしゅん』が、そこにある。

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……読書感想文が下手、と言われ続けた理由がよくわかる。

本家は終了してしまった「3000文字チャレンジ」ですが、有志(?)により限定的な復活を遂げたようです。せっかくなので乗ってみました。

【SpecialThanks】
かざひなさん(@yomiasarityu)/ハチコさん(@hachiko8531

【本家】
3000文字チャレンジ公式アカウントさん(@challenge_3000

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