私が好きな作家の一人・西加奈子先生のおススメ本を紹介していこうと思う。
未読者も楽しめるようネタバレは避けてある。
1977(昭和52)年生まれの女性作家。
イランで生まれ、エジプト・大阪で育つ。
雑誌ライターを経て、2004年に持ち込み原稿である「あおい」でデビュー。
2013年には初の映画化作品となる「きいろいゾウ」が公開される。
2015年、「サラバ!」で第152回直木三十五賞を受賞。
今夏には映画「さくら」も公開予定なので、これからもどんどん注目が高まっていくことだろう。
そんな西先生の魅力はいろいろあるが、個人的には関西弁(大阪弁)が好きだ。
海外生まれではあるものの、中身は生粋の大阪人。
そんな自らの出身を生かし、舞台が大阪であったり、登場人物が関西弁を話したりする作品が多くを占める。
私は方言が好きなので、この点はかなりポイントが高い。
いやー、関西人は羨ましい。
小説を書くにしても自分の話し言葉を文に起こせばいいわけだから。
関東人が関西弁を作品に落とし込むとなると、すごい勉強しなきゃだもん。
しかもどうしても細部がわからないから違和感あるし……。
そんなわけでバリバリの大阪弁が使われる西先生の作品は、「あ~、これ大阪弁だから余計味が出たわ」と思えるものがいくつもある。
(個人的には「ふる」がもっともそう感じた)
関西人は作品内の方言にうるさいとも聞くが、彼女の作品なら納得できるのではないだろうか。
そして西先生の作品は、『外れ者』に響くものが多い。
まあ、小説というのはそういう傾向が強いのだけれど……。
例えば主人公の容姿が悪かったり、職を失っていたり。
人とのコミュニケーションが不得手で、どことない生きづらさを抱えて生きている人物が多い。
そんな彼ら・彼女らの生き方が自然に書かれている。
読み終わった後にははっきりとしたカタルシスよりもむしろ、小さな勇気が胸に落ちる。それがまたいい。
刊行小説は2020年現在までに、下記の22作。
- あおい(2004年 小学館、)
- さくら(2005年 小学館)
- きいろいゾウ(2006年 小学館)
- 通天閣(2006年 筑摩書房)
- しずく(2007年 光文社)
- こうふく みどりの(2008年 小学館)
- こうふく あかの(2008年 小学館)
- 窓の魚(2008年 新潮社)
- うつくしい人(2009年 幻冬舎)
- きりこについて(2009年 角川書店)
- 炎上する君(2010年 角川書店)
- 白いしるし(2010年 新潮社)
- 円卓(2011年 文藝春秋)
- 漁港の肉子ちゃん(2011年 幻冬舎)
- 地下の鳩(2011年 文藝春秋)
- ふくわらい(2012年 朝日新聞出版)
- ふる(2012年 河出書房新社)
- 舞台(2014年 講談社)
- サラバ! 上下(2014年 小学館)
- まく子(2016年 福音館)
- i(2016年 ポプラ社)
- おまじない (2018年 筑摩書房)
すべて読んでいるので、この中から私がとくに「おもしろい!」と感じた上位5作品を紹介していく。
あ~、迷った。
どれもいい作品ぞろいでめっちゃ迷ったわ~。
西加奈子おすすめ作品ベスト5
どれも甲乙つけがたいけれど、選んだのは次の5作。
ランキング形式にしているけど、いつものごとく隠す気のない目次。
5位 しずく
2007年、光文社より出た初めての短編集。
恋人同士が一緒に暮らし始めたことで出会った2匹の雌猫・フクとサチ。
フクは真っ白の身体に、日本地図のガラ。6歳。
サチはキジトラの身体に靴下を履いた模様。8歳。
気高い2匹は喧嘩が絶えない。
蛇口から垂れる水を奪い合い、「オイワイ」のご馳走を殴り合って食べ、温かなお布団で身を寄せ合う。
人間はうるさいけれど、悪くはない……。
そう思いながら日々を過ごす2匹だったが――
2匹の猫の出会いと別れを綴る表題「しずく」他、女ふたりを書いた短編集。
女2人の話が6編収録されている。
一番面白かったのは、子ども嫌いなのに恋人の娘を1日預かることになった「私」と、娘・マリの物語。
題は「木蓮」
これは面白い。
文学的というか、普通に笑える。
マリは「私」の恋人と前妻との間にできた子ども。
それだけでマリに対して良い感情を抱けないわけだが、「私」は恋人にイイ女であると思われたくて必死にマリの面倒をみる。
しかしマリはクソガキだ。
おまけに何かとエロい単語にばかり興味を持つ。
そんなクソガキに振り回される私のイライラっぷりが絶妙なテンポで語られる。
4位 サラバ!
小学館より2014年刊行。
翌年に直木賞を受賞した作品。
1977年、圷歩(あくつあゆむ)は遠いイランの地で生まれた。
背が高く痩せて寡黙な父、美人でいつまでも女であろうとする奔放な母。
そして、世の中にありとあらゆる怒りの感情をぶちまけている姉・貴子。
圷家は母と姉の対立が絶えず、やがて両親の離婚という形で崩壊を迎える。
三者の生き方に抗えぬまま流されてきた歩も、気がつくと大人になっていた。
「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」
人は信じるものを自らの力で見つけ出した時、歩みだすことが出来る。
長い放蕩と歳月の果て、父が母が、貴子が、そして歩むが見つけた『信じるもの』とは――?
家庭環境がそうさせたのか、意思が薄く流されて生きる男が主人公。
ちょっと普通ではない圷家に生まれた歩が、幼少期から大人になるまでの人生を語っていくというストーリーになる。
主人公はイランで生まれ、小学生時代をエジプトで過ごし、以後大阪で暮らす。
言わずもがな西先生の遍歴そのまんまで、エジプト人やエジプトでの暮らしの描写が細かいので実体験が元になっているのだと思う。
あ~……私も幼少期を海外で過ごしてみたかった。
奔放な母と、とにかく「やらかす」奇人・姉の間で気配を消す主人公、という話が延々と続くわけだが、下巻に入るとあっという間に読み終わってしまう。
「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」
このセリフが特に印象深い。
というか、作品そのものを表している言葉だと読み終わるとわかる。
3位 さくら
2005年、小学館より刊行。
2作目でありながら20万部を超えるベストセラーとなる。
ヒーローだった兄が死んだ。
妹は引きこもり、母は肥満化、そして父は家からいなくなった。
『僕』も大阪の実家を離れ、長谷川家には2人の女と、「サクラ」と名付けられた十二歳の老犬だけが残された。
ある日、東京で暮らす『僕』の元に一通の手紙が届く。
「年末、家に帰ります。おとうさん」
兄のいなくなった家に、家族4人と1匹が集まる。
崩壊と再生の物語。
人気者の兄、変わり者だけど超美形の妹に挟まれた、平凡な次男が主人公。
テイストは「サラバ!」と似ており、幼少期から大学生までに主人公の身の周りで起きたことが家族を中心に語られていく。
兄が故人であることは冒頭で明かされていた。
兄を失ったことがきっかけでバラバラになっていた家族が数年ぶりに集まる、というところから物語は始まる。
家族の一人を失い狂っていく家庭、というベタではある題材を丁寧に書いており、長い積み重ねがあったからこそラストが美しく見える。
どうやら2020年夏に映画が公開されるらしい。
兄は吉沢亮、弟は北村匠海、妹は小松菜奈。
作中でも3兄妹は美男美女という設定だが、こんな兄妹いたらやばいですわ。
2位 地下の鳩
2011年、文藝春秋より刊行。
昔はモテたが、今はそうでもない。
陰鬱な目を持つ吉田は、大阪ミナミの繁華街でキャバレーの客引きとして働いていた。
ある日出会ったのは若いスナックのチーママ・みさお。
素人くささと静かな気品を持ち合わせたみさおに、吉田は惹かれていく。
吉田とみさお、そしてオカマバーを営むミナミの人気者・ミミィの視点で書かれた番外編を混ぜ、大阪の「夜の顔」が語られる。
華やかな大阪の「夜の姿」が描かれている。
西先生の作品の中でもっとも重く、暗澹たる物語だと思う。
暗い目をしたキャバレーの客引きと、素人くさいチーママ。
何か過去がありそうな2人の出会いと交流が、淡々と綴られていく。
作中ではみさおが落とした自転車の鍵をみんなで探すなど、ミナミの街の温かな人柄が書かれていた。
一方で彼女が若くしてチーママになれたのは「短大を出ているから」という理由で、夜の街で生きる者は学歴コンプレックス、社会的地位の差異を感じている。
誰も彼も退廃的で未来は決して明るくなく、しかしそれでも生きていく。
ただそれだけの話だが、どうしようもなく心惹かれる作品だ。
1位 通天閣
2006年筑摩書房より。
織田作之助賞大賞受賞作品である。
動かない時計ばかりを集めた部屋で暮らす男。
百円ショップに卸す製品の組み立てをして、ひとり生きる。
留学をした恋人を広いアパートで待ち続ける女。
夜を埋めるために、頑張りどころをなくしたままスナックのチーフとして働く。
そんな人生。
ふたりの側には、いつも通天閣があった。
2つの人生が通天閣で交差するとき、ふたりの瞳に過去を呼び起こすものが映る――。
40歳を過ぎても1人で、人生をこなすように毎日を生きる男。
そして何の相談もなく留学してしまった男を待つだけの日々を送る女。
物語は2人の視点で交互に綴られていく。
個人的な好みだが、夢も希望もなく、それでも続いていく日々に何も見いだせない人たち、というのがとても好き。
環境や生きる世界は結局変わらず、けれど心は僅かに動く。
小さな希望のようなものが見いだせなくもない世界観。
こういう話は大衆受けはイマイチかもしれないけど、とにかく好き。
二次元でいうと「planetarian」
あのゲーム(アニメもだけど)、最高。
それはさておき、「地下の鳩」と「通天閣」は登場人物や作品全体の雰囲気がやや似ており、どちらも私の琴線に触れる物語になっている。
そんなわけでツートップ。
2人の人生が交差するラストがあまりに美しかったので、僅差で「通天閣」がトップ。
「おまえさては水商売の女が好きだな……?」と言われたら否定できない。
明確な爽快感を味わいたい人には正直向いていないと思う。
まとめ
ぜひ読んでいただきたい5作品。
とはいえ他の作品も魅力に富んでいるのでいろいろ読んでもらいたい。
恐らく西先生の作品は女性向けなのかな、という感じもするが男性でも好きな人はいるようで。
初めて読んだ時は「女のクセが強い!」と思ったものの、読んでいくうちにハマる。
電子書籍化には反対派なのか、kindleでは買えないという点が残念。
半分くらいは文庫化しているので、気軽に手にとってもらいたい。
以上
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